人間に癒しを与えてくれるペットたち。飼い主との間に強い絆を築くペットは「コンパニオン・アニマル」と呼ばれ、飼い主の心と体の健康にも好影響を与えるとされています。
特に、高齢の飼い主の支えとなるというペットの役割は、近年大きな注目を集めています。
一方で、高齢の飼い主は入院や体力の低下、認知症などによりペットの世話をできなくなってしまうリスクが高いという側面もあります。
高齢者がペットを飼うことのメリット、問題点、そして何をすべきかについて考えてみましょう。
この記事の目次
高齢者がペットを飼うメリットは?
心の健康
セラピストとして犬が人間の専門家よりも秀でているという研究結果があります。社会学者のGillian MacCologan氏はその要因として、「なでたり抱きしめたりできる」、「相手の年齢によって対応を変えない」ということを挙げています。
高齢の飼い主でも「年寄り扱いをしない」ということは、猫などの他の動物にも同じことが言えそうです。また、ペットを飼っている人は飼っていない人に比べて、配偶者が亡くなったとき、うつになりにくい、という研究結果もあります。
体の健康
ペットを飼うことは、飼い主の心だけでなく、体の健康にもよい影響をもたらします。
「ペットの世話をするために元気でいなければ」と思い、健康に気をつける上に、犬を飼っていれば散歩に出かける機会も自然と増えます。2017年の研究(Taniguchi, 2018)では、犬を飼っている高齢者は、犬を飼っていない高齢者に比べて1日の散歩時間が約20分長いことが分かりました。
犬の散歩のおかげで、近所の人とおしゃべりをする機会が増えることもあります。他人と関わることが少なくなった高齢者にとっては、特にこのような機会はとても貴重なものではないでしょうか。
高齢者とペットを取り巻く問題
飼い主の心と体によい効果をもたらすペットですが、一方で、高齢者がペットを飼うということにはさまざまな問題もあります。
捨て犬・捨て猫問題
飼い主が長期間入院することになったときや、亡くなってしまったときなど、他にペットの世話をしてくれる人がいなくなった場合、ペットは取り残されてしまいます。
2016年に朝日新聞が全国115の自治体に対して実施した調査によると、高齢が原因と見られる理由で捨てらた犬と猫は3000匹近くにものぼり(太田, 2018)大きな社会問題となっています。そのため、保護犬や保護猫の高齢者への譲渡に制限をかけている自治体も複数あります。
ペットと離れる喪失感
ペットの世話をできなくなったとき、代わりに世話をしてくれる人がいたとしても、かわいがっていたペットと離れることで受けるショックは大きいものです。他に身寄りがなく、ペットしか家族がいない高齢者の場合はいっそうでしょう。
世話を引き継ぐ人の負担
ペットを飼えば、エサ代や予防接種代、病気になったときの治療費など、何かとお金がかかるものです。もちろんそれなりに時間もかかります。
ですから、お金や時間に余裕がない人がペットの世話を引き継いでしまうと、大きな負担となってしまいます。
何をすべきなのか
それでは高齢の飼い主は、どのようなことをやっておくべきなのでしょうか。
代わりに世話してくれる人を決めておく
もしも自分でペットの世話ができなくなってしまったとき、「代わりに世話をしてくれる人」はいるでしょうか?世話をする人が誰もいなければ、ペットを保健所に預けることになってしまいます。
なるべくペットを飼い始める前に、代わりの人がいるかどうかを考えておきましょう。
ただし、世話を頼む相手は誰でもよいわけではありません。先ほども言いましたが、ペットを飼えば、それなりに時間やお金がかかります。具体的にどのくらいのお金や時間がかかるのかを相手に伝えた上で、本当に世話ができるのかどうか、よく考えてもらう必要があります。
世話を引き継いだ「後」のことも考える
ペットを代わりに世話してくれる人が決まったら、引き継いだ後のことも考えておきましょう。
ペットにアレルギーや持病がある場合は、必ず伝えておきます。また、事前にどのような予防接種を受けたかなども伝えるようにしましょう。そしてできる限りそのことを書面に残しておくとよいでしょう。
また、「ペットとお金をセットで引き継ぐ」という方法もあります。お金が伴えば、簡単に世話を放棄できませんし、「お金とセットで託される」ことは引き継ぐ側としても安心でしょう。
負担付遺贈
ペットの世話を引き受けることを条件にお金を託す、という遺言。自筆ではなく、公証人が作成する「公正証書遺言」にすることが大切。負担付死因贈与
ペットとお金をセットで贈与するという契約。遺言は一方的だが、これは双方で結ぶ契約なので簡単に破棄ができない。ペットの信託
残したお金がペットのためにちゃんと使われているかを第三者が監督する。飼い主が亡くなったときだけでなく、入院したときや認知症になったときにも対応できる
(出典:中村, 2018)
飼い主の幸せ、ペットの幸せ
ペットは高齢者にさまざまなよい影響を与えます。しかし、その一方で、多くの問題も抱えています。
もちろんこれは高齢者に限った話ではありませんが、ペットを飼うのならば、「もしも」のときにどうするのかをよく考えておく必要があります。
出典
- McColgan, Gillian(2007).The importance of companion animal relationships in the lives of older people. Nursing Older People (through 2013), 19(1), 21-3.
- Taniguchi, Yu(2018). Physical, social, and psychological characteristics of community-dwelling elderly Japanese dog and cat owners. PLoS One, 13(11)
- 太田匡彦(2018).ペットとの暮らし、生きる励み 高齢の単身生活、世話が生む張り, 朝日新聞デジタル,
https://www.asahi.com/articles/DA3S13684905.html - 中村千晶(2018).「もしも」のときペットはどうなる!? 最期まで愛犬愛猫と暮らす方法, 朝日新聞デジタル,
https://petlifenet.org/wp-content/uploads/2018/06/20180621週刊朝日PDF.pdf.