猫の飼い主の皆さんは、猫が自身や同居猫の名前を理解していると感じたことはありますか?また、猫はそれらの名前をしっかり聞き分けているのでしょうか。
この度、京都大学や麻布大学などの研究チームは、猫が一緒に住んでいる他の猫やヒトの名前を理解しているのかについて研究結果を発表しました。
この記事では、その研究についてわかりやすく解説していきます。
この記事の目次
実験概要
この研究では、猫が同居する猫やヒトの家族の名前を認識しているかについて調査されました。
ヒトの場合、ある言葉を聞くと、そのもの、もしくはそれに近いものを想像します。一方で、ヒト以外の動物でもこのような反応がある程度見られることがわかっています。
今回は、心理学で用いられる「期待違反法」という手法を用い、名前を呼んだ後にモニターに呼んだ名前の猫やヒトの写真もしくは、異なる猫やヒトの写真を表示し、モニターを注視する時間によって、猫が同居猫やヒトの家族を認識しているかについて調べます。
期待違反法
期待とは異なることが起きると、その事象を長く見るという性質を利用し、動物や乳児が何を期待しているのかを調べる心理学的手法。
実験1 猫は同居猫の顔と名前を認識しているか
方法
今回の実験に参加した猫のうち、29匹(オス:17匹、メス:12匹)は猫カフェで飼育されており、ヒトや猫同士が自由に触れ合うことができます。19匹(オス:11匹、メス:8匹)は、家庭で飼育されており少なくとも2匹の他の猫と一緒に暮らしています。
猫をモニターの前に座らせ、同居する猫の名前を呼ぶ声を再生したあと、その名前の猫・もしくは違う猫を表示します。
もし、猫が同居している猫の名前と顔を一致させているのであれば、期待違反法により呼ばれた名前と違う猫が表示された場合に、モニターを注視する時間が増えることが予想されます。
結果
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
上のグラフでは、赤いバーが名前と写真が一致した場合、青いバーが一致していない場合を表します。また、左のボックスは猫カフェの猫、右のボックスは家庭で飼育されている猫をそれぞれ表しています。
猫カフェの猫たちは、モニターを注視する時間にほとんど差がなく、猫の名前と顔を理解できていないと考えられます。
一方で、家庭で飼育されている猫では、モニターを注視している時間に有意な差があり、名前が異なる猫の写真が表示されたときの方が見る時間が長いことが示されています。この結果から、猫が同居猫の名前と顔を理解していることがわかりました。
実験2 猫は同居家族の顔と名前を認識しているか
方法
2人以上のヒトの家族が住む26匹(オス:15匹、メス:11匹)の飼い猫を対象とし、そのうちの13匹は2人家族、7匹は3人家族、4匹は4人家族、2匹は5人家族の家で暮らしています。
実験1と同様の方法で、ヒトの名前を呼び、顔写真をモニターに表示し、猫がモニターを見る時間を調査しました。
結果
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
上の図では、縦軸に注視した時間、横軸に猫が飼育されている家庭の家族の人数を表し、赤い点は呼ばれた名前と表示された写真が一致した場合、青い点は一致しなかった場合を表しています。
名前と家族の顔写真が一致する場合と一致しない場合で、モニターを注視する時間に有意な差はありませんでした。
しかし、同居する家族の数が多いほど、一致しないときの写真を見る時間が長くなりました。これにより、同居する家族の数が影響することがわかります。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5より
さらに、上の表は、猫と家族が一緒に暮らした時間でグループ化したものです。short(中央値より短い)よりもlong(中央値より長い)の方が、名前と画像が一致したときにはモニターを見る時間が短く、一致しなかった時にモニターを見る時間が長くなっていることがわかります。
これにより、一緒に暮らした時間が長い方が、名前を認識できる可能性がより高いと考えられます。
考察
家庭で飼育されている猫は、同居猫の名前を呼ばれるとその名前の猫の顔を期待しており、同居する他の猫の名前を認識していることがわかりました。
また、同居家族が多く、飼育期間が長いほど、ヒトの家族の名前も一致している可能性が高いことがわかりました。同居する家族が多くなると、必然的に家族間で名前を呼び合う頻度が高くなり、飼育期間が長くなれば名前を聞く機会が増えます。
これにより、猫はヒトとの生活の中で名前を聞き分け、その名前の人物が反応するのを観察し、名前と顔の関連を学習している可能性が示唆されました。
まとめ
今回の実験と結果について、「知ってた」「そんな感じはしてた」と思った方も多いかもしれません。しかし、研究があまり進んでいない猫について、他の猫の名前を認識しているかを科学的に証明した、とても意義のある研究です。
もし、愛猫に自分の名前を覚えてもらいたかったら、同居家族にたくさん名前を呼んでもらえる環境の方が良いでしょう。また、飼い主が猫の名前をたくさん呼ぶことで、猫も猫自身の名前を覚えるようになるかもしれません。
名前を呼んだりスキンシップをとったりして、これまで以上に愛猫との絆を深めてくださいね。