呼吸困難とは、「何らかの原因で呼吸の速度や性質に異常を来す」ことです。突然愛犬が呼吸困難に陥ったとしたら、あなたは冷静な対応ができるでしょうか。
今回は犬の呼吸困難について、獣医師が詳しく解説します。紹介する疾患はいずれも命に関わる可能性があるため、見つけたら速やかに動物病院を受診してください。
この記事の目次
呼吸困難で考えられる病気
健康な犬の呼吸数は一分間に20回前後が目安です。犬の呼吸困難は、呼吸数によって考えられる病気が異なります。
呼吸数40回/分未満
呼吸数が一分間に40回未満の場合は、以下の疾患が考えられます。
- 喉頭麻痺/喉頭虚脱
- 短頭種気道症候群
- 気道内異物
- 気管虚脱
呼吸数40回/分以上
呼吸数が一分間に40回以上の場合は、以下の疾患が考えられます。
- 誤嚥性(吸引性)肺炎
- 気胸
- 膿胸
- 乳び胸
- 肺水腫
- 肺の腫瘍
ぞれぞれの病気について詳しく見ていきましょう。
呼吸数40回/分未満
呼吸困難に陥った際に重要となるポイントは、安静時の一分間の呼吸回数です。
一分間の呼吸回数が40回未満の場合は、気管や喉頭など上部呼吸器の異常が多いです。例えば、呼吸音が一時的におかしくなった後、ゆっくりした呼吸で眠ってしまったなどの場合は以下の疾患が考えられます。
なお、呼吸の異常によって動物病院を受診し、診断がなされた後は自宅での呼吸回数に注意してください。
喉頭麻痺/喉頭虚脱
【症状】
呼吸困難、しゃがれ声、運動不耐性、吸気困難(息が吸いにくそう)、チアノーゼなど。
【原因】
喉頭内筋という筋肉の神経支配が障害されることによる。甲状腺機能低下症との関連性についても報告されている。
【備考】
興奮時やストレス負荷時のチアノーゼが特徴的で、できれば動画を撮っておくと良い。
短頭種気道症候群
【症状】
吸気困難(息が吸いにくそう)、パンティング、いびき、睡眠時無呼吸、チアノーゼなど。
【原因】
外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、喉頭虚脱、気管低形成、二次性気管虚脱などが単一または複合的に見られることで症状が発現する。
【備考】
短頭種(チワワ、シーズー、パグ、フレンチブルドッグなど)に起きやすい。
気道内異物
【症状】
突然の呼吸困難、咳、流涎、開口呼吸、チアノーゼなど。
【原因】
小さな異物(植物の種や葉など)を吸引することによる。
【備考】
異物の大きさによっては気道閉塞によって命に関わることもある。
気管虚脱
【症状】
咳、アヒル様呼吸音、呼吸困難など。
【原因】
呼吸の際に気管が潰れることによって呼吸器症状が現れるが、なぜ気管が潰れるのかは不明。
【備考】
興奮時、運動時、首輪による圧迫などによって症状が現れる場合もある。ダイエットや、首輪からハーネスへの変換などによって症状が緩和されることもある。
呼吸数40回/分以上
呼吸が速く浅い場合は、緊急疾患である可能性があります。
明らかに呼吸が多い場合には、気管支や肺といった下部呼吸器の異常が考えられます。これらの疾患では酸素吸入などの管理が必要となることも少なくありません。
呼吸器疾患や心疾患の治療中、あるいは既往歴がある場合には日常的に呼吸数を確認しましょう。
誤嚥性(吸引性)肺炎
【症状】
突然の発咳、呼吸困難、呼吸速迫、発熱、運動不耐性、チアノーゼなど。
【原因】
異物(吐物、鼻汁、食物など)を気道内に摂取することによる。事前に嘔吐や吐出などの症状が見られることもある。
【備考】
治療の際には、再発防止のために何が誤嚥の原因となったかを究明する必要がある。
気胸
【症状】
頻呼吸、呼吸速迫、起坐呼吸(寝そべると苦しいのでお座りの姿勢でいること)、チアノーゼなど。
【原因】
交通事故などの外傷、腫瘍、炎症疾患など。
【備考】
気胸は、肺の外に空気が貯留している状態のこと。
膿胸
【症状】
元気消失、食欲不振、発熱、咳、頻呼吸、開口呼吸など。
【原因】
細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、異物、外傷などによる胸腔内の感染症。
【備考】
治療が遅れると敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)、ショックによって命に関わる。
乳び胸
【症状】
呼吸速迫、呼吸困難、運動不耐性、削痩など。
【原因】
特発性(原因不明)のものと、二次性(腫瘍や炎症疾患による)に分けられる。これらによって胸管から乳びが漏出する。
【備考】
「乳び」とは、脂肪を大量に含有したリンパ液のこと。乳びの漏出が続くと乳び自体が胸腔内で強い炎症を起こし、線維性胸膜炎や心膜炎を起こす原因となる。
肺水腫
【症状】
呼吸様式の異常(浅速呼吸、努力性呼吸)、咳、チアノーゼ、喀血など。
【原因】
心疾患(僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全など)、重度肺炎、気道閉塞、肺の外傷、アナフィラキシー、感電など。
【備考】
酸素吸入が必要な緊急病態である。
肺の腫瘍
【症状】
気管や気管支の物理的圧迫による発咳や呼吸困難、運動不耐性など。
【原因】
多くは転移性腫瘍で、原発性腫瘍は稀。胸膜炎や胸水貯留を続発することも多く、これらに伴って呼吸の変化が見られる。
【備考】
小さな腫瘍ではX線検査で検出できないこともあり、症状が重度になるまで気付かないことも多い。
まとめ
繰り返しになりますが、呼吸困難を見つけた場合、まずは速やかに動物病院を受診してください。呼吸に関する異常は、時に致命的になります。
健康な状態での呼吸の状態、すなわち呼吸数や音などを普段から把握しておくことも、愛犬を守るために大切なことです。