アニマルウェルフェアとは、一般的に「動物福祉」と訳され、動物たちが健康的で幸福な生涯を送れるように、人間が彼らの行動欲求を理解し、最善の環境を提供することを目指す考え方です。対象となるのは家畜や動物園の動物、野生動物などの全ての動物です。
そんなアニマルウェルフェアにおいて、「5つの自由」という概念が重要な役割を果たしています。今回は家庭犬における「5つの自由」を解説していきます。皆さんの愛犬の健康と幸福を考える上で、5つの自由が守られているか、チェックしていきましょう。
この記事の目次
家庭犬におけるアニマルウェルフェアとは
ペットは飼い主が可愛がるための動物であるとされていますが、単に可愛がるだけでは、動物のニーズに応え、最適な環境を提供しているとは言えません。人間が飼育する犬たちは、制限された環境で暮らしており、自分自身の行動欲求を満たすことができません。そのため、飼い主には犬たちができる限り快適に、苦痛を受けずに生活できるようにする責任があります。
ただし、犬は人間に非常に距離感が近い動物であるため、我慢を教えずに常に彼らの要求だけを満たしていると、「要求吠え」などの問題が起こり、飼い主のストレスになる場合があります。また、常に要求が通る環境にいて我慢ができない犬は、我慢しなければならない状況に置かれると強いストレスを感じてしまう場合もあります。
したがって、家庭犬の場合は畜産動物や野生動物などと比べると、「犬の要求」と「人間の生活」のバランスが非常に重要になると言えるでしょう。
5つの自由①飢えと渇きからの自由
犬が幸福に暮らすためには、栄養バランスの取れた食事と常に清潔な水を用意することが重要です。
栄養バランスの取れた食事が適量与えられていますか?
犬に与える食事は、適量かつ栄養のバランスが取れたものを与えるようにしましょう。また、多くの犬は食べることが大好きなので、食べ過ぎて健康を損なわないように注意しましょう。
愛犬に合う食事がわからない方はこちらの記事をご覧ください。
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犬がおねだりをするからといって、人間の食事を与えていませんか?
犬がおねだりをして、人間の食事をもらう癖がついてしまうと、栄養バランスを崩しやすく、要求がエスカレートする傾向があります。人間の食事と犬の食事はきちんと線引きしましょう。
犬の要求吠えについてはこちらの記事をご覧ください。
おやつくれ、外に出せ、留守番イヤだ!犬の吠えを制御する大事なポイント
犬に与えてはいけない食品を与えてはいませんか?
人間が食べても安全な食品でも、犬には有害なものがあります。しっかりと知識をつけて、与えない、盗み食い出来ないように対策しましょう。
犬に与えてはいけない食べ物はこちらの記事をご覧ください。
最低限知っておくべき、危険な食べ物リスト【犬猫版】
犬が飲みたい時に、きれいな水が飲めるようになっていますか?
犬が飲みたいときに水が飲めるように、常に清潔な水を用意しておくことが重要です。特に夏場は熱中症になりやすいので、水を切らさないように、複数の給水場所を用意することをおすすめします。多くの犬が一日に2回くらい食事を摂るので、食事の際に水も交換すれば、常に新鮮な水を飲めるでしょう。
犬の熱中症についてはこちらの記事をご覧ください。
数時間で重度の熱中症に。犬の熱中症、その症状と対策。
5つの自由②不快からの自由
犬が幸福で健康的に暮らすために、快適な環境を作ってあげることが重要です。
犬自身や居住スペースは清潔ですか?
犬自身や過ごすスペースが不衛生な場合、皮膚炎のリスクや呼吸器官に悪影響を与える可能性が考えられます。定期的にブラッシングやトリミングを行い、清潔な環境を整えてあげてください。
犬のお手入れの種類と頻度はこちらの記事をご覧ください。
【初心者必見】何をどれくらいやる?犬のお手入れの種類と頻度を解説
居住スペースの温度や湿度は適正ですか?
室温の目安としては一般的には、20~23℃程度が最適とされていますが、犬種や年齢などにより寒さ・暑さに弱い犬もいるため、犬の特徴を考慮する必要があります。湿度については、50%前後が最適とされています。
寒さに弱い犬についてはこちらの記事をご覧ください
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5つの自由③痛み・傷害・病気からの自由
定期的な健康チェックやワクチン接種を受け、病気や怪我を予防することが大切です。また、病気や怪我をした場合には、適切な医療を受けさせることが必要です。
病気にならないように健康管理・予防はしていますか?
病気予防のためには、ワクチン接種や適切な食事、衛生的な環境などが必要です。また、日々の手入れやスキンシップを通じて、犬の体のいろいろな場所に触ることで、病気や怪我の早期発見につながります。
健康管理についてはこちらの記事をご覧ください。
犬の飼い主さん必見!獣医師が教える日常の健康管理7カ条
怪我や誤飲を引き起こすような物は置いてありませんか?
怪我をしやすい突起物や誤飲をしやすい小物がないかをチェックしましょう。特に、元気いっぱいの若い犬や、目や鼻の機能が衰えた老犬の場合は注意が必要です。
事故事例と対策についてはこちらの記事をご覧ください
家の中はキケンがいっぱい?!本当にあった犬の事故事例と対策
5つの自由④恐怖や抑圧からの自由
犬に苦手なものがある場合は、できるだけ避けたり、しつけによって慣れさせたりすることが大切です。犬を放置したり、逆に過度に甘やかしたりすることはストレスの原因となり得ますので、犬との適切な距離感を保つよう心掛けましょう。
犬が恐怖や不安、ストレスなどの兆候を示していませんか?
犬の状態を注意深く観察し、ストレスや不安を引き起こす原因を取り除くように努めることが重要です。
犬のストレスについてはこちらの記事をご覧ください。
飼い犬がストレスを抱えているときに見られる行動と原因、対処法を紹介!
愛犬には苦手な音はありませんか?
雷や花火の音が苦手な犬は多くいます。避けられない音ですが、トレーニングによって恐怖心を和らげることが可能です。愛犬がストレスを溜めないようにするためにも、トレーニングをおすすめします。
音に慣れさせる方法はこちらの記事をご覧ください。
愛犬が怯えないために対策を。生活音や環境音の音源集9選
犬のしつけに体罰を使っていませんか?
犬のしつけに体罰は厳禁です。体罰を使わなければならないほどしつけが難しい場合は、ドッグトレーナーや獣医師などの専門家に相談し、適切な方法で愛犬のしつけをしましょう。
体罰の害についてはこちらの記事をご覧ください。
犬は痛い目に合わないと理解できない!?体罰によるしつけの害を解説
5つの自由⑤正常な行動を表現する自由
家庭犬にとって、こちらが一番難しい点ではないでしょうか。なぜなら、犬の問題行動として多く挙げられる「吠える」、「咬む」、「トイレの失敗」などは、次のように犬にとっては自然な行動であることが多いからです。
- 吠える = 不安だから警戒して吠える
- 咬む = 恐怖が限界に達し、攻撃に転じて咬む
- トイレの失敗 = 元々犬は決まった場所で排泄する習性がない
もちろん問題行動の原因は一つではありませんが、犬にとって「正常な行動」が、飼い主にとって「問題行動」になってしまうケースが多くあります。
ただ、家庭犬の場合は人間と暮らす上で、ある程度正常な行動を制限せざるを得ません。その分、犬らしさを出せる時間を作り、ストレスを発散させてあげてください。
犬らしさを引き出す遊びはこちらの記事をご覧ください。
愛犬に喜ばれる!犬の狩猟本能から考える5つのタイプ別の遊び方とは
まとめ
家庭犬にとってのアニマルウェルフェアの「5つの自由」について解説しましたが、チェックしてみていかがだったでしょうか。どの項目も当たり前のことながら、日々の忙しさに忘れてしまうこともあるかもしれません。
改めて確認することで、愛犬が幸せな生涯を送れるように、生活スタイルを見直してみてください。