イスタンブールの路上の犬猫は幸せか? 揺れ動くトルコの動物保護法

イスタンブールの路上の犬猫は幸せか? 揺れ動くトルコの動物保護法

動物福祉の先進国としてはヨーロッパの国々が有名ですが、ヨーロッパとアジアの中間に位置するトルコも犬や猫を大切にする文化があり、特に都市部では動物保護活動が進んでいます。ヨーロッパの保護活動とは異なり、トルコでは路上で暮らす野良犬や野良猫が非常に多く、街の景色に溶け込んでいます。

今回は、トルコの都市イスタンブールの路上で暮らす犬や猫、また動物保護に関する法律についてご紹介します。

この記事の目次

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イスタンブールの路上の犬猫たち

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かつてのトルコは、現代のように路上の動物に対して優しい国とは言えませんでした。1990年頃の一部の地域では、路上の犬や猫を駆除するために毒入りのエサを置くなど、過酷な対応が取られることがあったとされています。
しかし、2004年に動物保護法が可決されると、地方自治体に対して路上で生活する野良犬や野良猫の保護が義務付けられました

そして現在、トルコの街では至るところで飼い主のいない犬や猫が暮らしています。その中でもイスタンブールは、特に犬や猫に優しい都市として知られています

トルコと猫の歴史

トルコの国民の大多数が信仰するイスラム教の教えでは、猫は清潔な動物とされており、預言者ムハンマドが猫を大切にしたと伝えられています。その影響もあり、猫に対して好意的な文化が存在します。猫の清潔さとムハンマドの影響により、猫たちはトルコのモスクに入ることさえ許されています。

イスタンブールの路上で暮らす猫たちのドキュメンタリー映画

トルコと犬の歴史

イスラム教では猫とは違い、犬は不浄の動物とされ、忌避されることもあります。
1909年にイスタンブールでは、多数の野良犬が捕獲され、マルマラ海にある孤島に置き去りにされました。その数は数万頭に上るとも言われています。行政側は「犬は適切に世話され、エサも与えられた」と主張しましたが、実際にはほとんどの犬が餓死したと伝えられています。

しかし、その3年後の1912年にマルマラ海沿いで大地震が起こり、トルコの人々はその地震を、犬たちへの仕打ちに対する神からの罰だと考えたと言われています。

それから長い時を経て犬たちに対する意識も変化し、2004年の動物保護法により、野良犬たちの生活が保護されるようになりました。具体的には、税金で必要な医療を受けたり、不妊手術や狂犬病ワクチン接種などが行われています。

イスタンブールの路上で暮らす犬たちのドキュメンタリー映画

動物の権利法(Animal Rights Law)の制定

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2012年には、「動物福祉のため」という名目で、路上の犬や猫たちを集めてシェルターに収容する法案の提出が検討されました。しかし、動物保護に関心の高い人々は、この法案が犬や猫の殺処分につながる可能性があると懸念し、イスタンブールでは大規模な抗議デモが発生しました。その結果、この法案の可決は見送られました。

そして、2021年には動物愛護法の改正法案が可決されました。この法律は「動物の権利法」とも呼ばれるようになり、動物を「モノ」ではなく「生きている存在」として認め、権利を有することを示しています。

以下に、「動物の権利法」の一部概要をご紹介します。

  • 動物の虐待や殺害を犯した場合、「犯罪者」として懲役刑が科される
  • 動物が虐待されていたり、命の危機にさらされている場合、警察が介入できる
  • 闘犬や闘鶏などのブラッド・スポーツの開催は「犯罪」とされ、警察の捜査対象となる
  • 動物の販売はオンラインのみで行われ、飼い主が引き取るまでの間は自然な環境で飼育する義務がある
  • 「動物愛護基金」が設立され、自治体への定期的な金銭的支援が行われる
  • 各自治体は予算の1%を動物福祉のために充てるよう義務付けられる
  • 路上で暮らす犬や猫の不妊手術や保護は自治体が行う

参考文献:トルコでは動物にも「権利」がある? 新たに「動物の権利法」が可決|ニューズウィーク日本版

この法律の可決は、動物保護団体にとっては悲願の達成でした。動物に優しいと言われるトルコでも、やはり一部には動物虐待を行う人間が存在し、とりわけ路上で暮らす犬や猫が標的になっていました。

法律が可決されたとはいえ、動物虐待がすぐになくなるわけではありませんが、これまでの法律より一歩も二歩も進んだ内容になっており、路上で暮らす犬猫たちの環境がさらに良くなることが期待されています。

ただし、この法律は動物園や農場などには適用されません。多くの動物を保護するためには、まだまだ課題は残ります。

変わりつつあるトルコの犬猫の状況

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動物保護団体が悲願としていた「動物の権利法」の可決からわずかな期間を経て、路上で暮らす犬猫たちの状況に影響を与えかねない出来事が起こりました。それは、トルコ南東部の都市、ガズィアンテプで飼われていた2頭のピットブルが4歳の女児を襲い、首や顔に咬みついて重傷を負わせた事故です。

この事故の後、トルコのエルドアン大統領は次のように述べたと報じられています。

飼い主がいない動物を路上から取り除いて、清潔で安全な環境に移すことは重要な措置だと思います。 すべての自治体に対し、市民の安全の確保とこれら動物たちの命を守るための措置を迅速に講じるよう要請します。

出典:トルコでは犬猫が政治的な駆け引きのツールになる?‐ 有名になりすぎた野良犬 Boji の身に危険が及んだいきさつ|ニューズウィーク日本版

女児が重傷を負った事故は、野良犬ではなく飼い犬のピットブルによるものでしたが、この事故をきっかけに、路上の犬猫の安全対策を見直す動きが強まりました。これに対して、動物保護団体は路上の犬猫たちをシェルターに収容することの是非について疑問を投げかけています。

揺れ動くトルコの野良犬問題

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2024年7月、トルコの野良犬たちは大きな転機を迎えました。トルコ議会が、数百万頭に上る野良犬を捕獲し、保護施設に収容することを定めた法律を可決したのです。この法案はエルドアン大統領率いる与党によって起草されましたが、動物保護活動家や野党からは激しい反発があり、数千人規模の反対デモが行われました。

野良犬問題の深刻化と法律への懸念

現在、トルコには推定400万匹の野良犬がいるとされています。この法律を支持する人々は、野良犬による人への攻撃や狂犬病のまん延、ロードキルの問題(交通事故での動物死亡)などを懸念しています。

この法律では、これらの問題を解決するために、自治体に対して野良犬を捕獲し、保護施設でワクチン接種や去勢・避妊手術を行い、その後里親に譲渡することを義務付けています。攻撃的な犬や、治療が困難な病気を持つ犬については、安楽死も認められています。

ちなみに、調査によると殺処分を支持する人は全体の3%未満で、約80%の人が野良犬をシェルターに収容することに賛成しています(出典)。

しかし、トルコ国内の動物保護施設は322カ所ほどで、収容可能な頭数は約10万5000頭に過ぎません。400万匹近い野良犬を受け入れるには現行の体制では対応しきれず、さらに自治体が必要な資金を確保できるかどうかも大きな課題です。

動物保護活動家たちは、行き場を失った大量の犬たちが病気などを理由に自治体によって殺処分される可能性を懸念しており、代わりに野良犬を減らすための不妊手術の実施をさらに増やすことが必要だと訴えています。

まとめ

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街中で野良犬や野良猫が自由気ままに暮らす光景が印象的なイスタンブール。しかし、新たな法律の制定により、今後どのように変わっていくのかはまだ不透明です。この変化が動物たちにどのような影響を与えるのか、国内外から注目が集まっています。

今回ご紹介したような日本とは異なる海外の動物保護の取り組みを知ることで、日本ではどのような方法が動物たちにとって最良なのかを考える一助となれば幸いです。

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