【獣医師監修】消化器疾患だけじゃない!猫の下痢で考えられる病気

2023.09.20
【獣医師監修】消化器疾患だけじゃない!猫の下痢で考えられる病気

猫と一緒に生活をする上で、毎日顔を合わせなければならないのが排泄物です。言葉を話せない猫において便や尿は、その子の健康状態をありのままに写す貴重なデータです。

もし、いつもより愛猫の便が柔らかい、あるいはもうほとんど形を有していないとしたら、あなたはどうしますか。もちろん、それは一時的な下痢かもしれません。しかし、そこには放置してはならない病気が隠れているかもしれないと、常に考えなくてはなりません。

今回は猫の下痢で考えられる疾患について解説します。

この記事の目次

消化器などの内臓疾患

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下痢という症状について、まず考えられるのは消化器など内臓の異常です。わかりやすいのは腸炎でしょうか。

では、その下痢は腸に原因があるのか、それとも他の箇所に原因があって結果的に腸に影響が出ているのかは見た目ではわかりません。そこはしっかりと検査を行う必要があります。

まずは代表的な疾患をいくつか紹介します。

炎症性腸疾患(IBD)

【症状】
3週間以上続くような慢性的な嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失など。低タンパク血症による腹水貯留が見られることもある。
【原因】
遺伝的素因、感染症、食物などによるアレルギー、腸内細菌の乱れ、免疫異常などが複合的に関与していると考えられるが、はっきりとした原因は不明。
【備考】
他の下痢を起こす疾患を鑑別・除外しながら、確定診断は内視鏡下での組織生検が必要となる。しかしこれには全身麻酔が必須であり、猫の状態などを慎重に見極める必要がある。

リンパ腫

【症状】
猫で多いとされる消化器型リンパ腫では嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が見られる。他には発生部位によって症状は様々で、縦隔型では胸水貯留、鼻腔ではくしゃみ、鼻汁、鼻出血、顔面の変形、腎臓では多飲多尿や血尿、中枢神経では発作が認められる。
【原因】
直接的な原因は不明だが、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)の感染や受動喫煙、慢性炎症の関与が示されている。
【備考】
FeLV陽性猫では若齢(3歳齢前後)、FeLV陰性猫では高齢(13歳齢以上)でのリンパ腫の発生が多いとされている。

肝リピドーシス

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、黄疸、脱水など。
【原因】
太った猫において、他疾患などによる食欲不振から体内で蛋白質の不足が起こり、その結果、脂質代謝異常で肝臓に脂肪が蓄積するケースが多い。他にも栄養障害、ホルモン異常、ストレスが関わっているとされている。
【備考】
適切な体重管理によって猫を肥満にさせないことが、肝リピドーシスの発生予防に繋がるかもしれない。

胆管肝炎

【症状】
嘔吐、下痢、発熱、脱水、腹痛、黄疸など。
【原因】
消化管からの細菌の逆行(化膿性胆管肝炎)、炎症性腸疾患や膵炎などの関連(非化膿性胆管肝炎)による。
【備考】
胆管肝炎は猫の慢性肝疾患では最も多く見られる。化膿性か非化膿性かで治療方針も異なるので鑑別は重要。

内分泌疾患

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猫では内分泌系の疾患も比較的よく見られます。内分泌系とは、ホルモンを分泌する器官のことで、全身状態の維持に大きく関与しています。

何らかの原因でこの内分泌系に異常が起こると、下痢を始めとする様々な症状が現れます。

甲状腺機能亢進症

【症状】
嘔吐、下痢、食欲増加、体重減少、攻撃性増加、多飲多尿、脱毛など。
【原因】
頚部にある甲状腺の過形成や腫瘍によって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによって引き起こされる。
【備考】
シニア期(7歳齢以上)では、半年に一度くらいは健康診断として血液検査で甲状腺ホルモンを測定することが早期発見に繋がる。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、嘔吐、下痢、脱水、便秘、低体温、体重減少など。皮膚感染症、膀胱炎といった感染症や白内障を引き起こすこともある。
【原因】
猫は蛋白質からグルコースを産生する代謝系が活発で、容易に血糖値が上昇する。インスリン分泌も低く、肥満、ストレス、感染症などの血糖値を下げられない因子が関わると糖尿病状態になりやすい。
【備考】
雄は雌の1.5倍発症しやすい。過体重、老齢、膵炎、腫瘍、感染症も危険因子となる。

感染症

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屋外に出ることのある猫は、他の猫から病原体をもらうこともあります。

以下の感染症は、日本でも注意するべきものです。中にはワクチンで予防できるものもあるので、生活環境によっては接種を検討してもいいかもしれません。

猫汎白血球減少症

【症状】
軽症例では軽度発熱、食欲不振。重症例では40℃以上の高熱、食欲廃絶、嘔吐、下痢。子猫での発症が多い。
【原因】
猫パルボウイルスの感染による。
【備考】
定期的なワクチンの接種によって予防する。アメリカのガイドラインでは3年に1回が推奨されている。

猫免疫不全ウイルス感染症

【症状】
感染後の時期によって症状は異なる。急性期では発熱、貧血、下痢など。その後症状がない時期が数カ月~数年続き、徐々に口内炎、歯肉炎、上部気道炎、皮膚症状、重度削痩、腫瘍(特にリンパ腫)、日和見感染などが現れる。
【原因】
猫免疫不全ウイルス(FIV)は、感染猫からの咬傷から感染する。
【備考】
外に出る習慣のある猫は感染のリスクを伴うので、室内飼いが推奨される。また多頭飼育の場合にも新しく猫を迎える際には、ウイルスを保持していないかを検査する必要がある。

トキソプラズマ症

【症状】
一般的には下痢を認め、成猫より子猫で見られる。これは原虫が腸管で発育することによるが、腸管外発育の場合には発熱、ぶどう膜炎、痙攣、黄疸、下痢、膵炎などを起こす。
【原因】
感染猫の糞便中のトキソプラズマ原虫を経口摂取することによって感染する。
【備考】
ヒトにも感染することがあり、特に妊娠中の女性は流産や胎児の視覚障害、脳障害なども起こるため注意が必要。

まとめ

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一言で下痢と言っても、その原因は様々です。早い段階で原因を突き止め、適切な処置をしてあげることが愛猫にとって一番なのではないでしょうか。

そのためには糞便検査や、便を写真に撮るなども有効となることがあります。何か気になることがあれば、気軽に動物病院にご相談ください。

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