ネコは全身を毛で覆われています。その体毛が抜け、生え変わることは自然なことと言えるでしょう。
しかし、明らかに一部分だけ脱毛が見られる、あるいはそこから見える皮膚に異常があるとしたらどうでしょう。様子を見ていいのか、動物病院を受診すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は猫の脱毛で考えられる疾患について解説します。
この記事の目次
皮膚の異常
脱毛が認められたとき、まず第一に考えるべきは皮膚の疾患です。
皮膚に赤みや痂皮(かさぶた)、フケなどが見られる場合には皮膚疾患かもしれません。
また、痒みが伴うことも多いため、放置して悪化すると愛猫にとって大きなストレスとなることもあります。
皮膚糸状菌症
【症状】
フケ、円形の脱毛(毛がちぎれることによる)、細菌感染を伴うと痒み、赤みなど。
【原因】
真菌である皮膚糸状菌の感染。感染には皮膚の免疫低下も関連しているため、免疫異常を起こす他の疾患がないかも確認する必要がある。
【備考】
皮膚糸状菌は環境中で1〜7年も感染性を有するという報告もある。また、ヒトにも感染する人獣共通感染症である。アルコールが無効なので、環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いなければならない。
ノミアレルギー性皮膚炎
【症状】
強い痒み、腰背部の広範囲の丘疹(粟粒性皮膚炎)、引っ掻くことによる自己損傷性の脱毛など。
【原因】
ノミに対するアレルギー反応。ノミが寄生していてもアレルギーが起こらなければ比較的軽度の掻痒が起こる程度で済むこともあるが、少数のノミ寄生でも強い症状が現れることもある。
【備考】
定期的な駆虫薬の投与(内服、外用)によって予防が可能。ノミの発生は特に夏場が多いとされるが、家具の隙間などに一年中存在するとの報告もある。
疥癬
【症状】
初期症状は耳端のカサブタ、皮膚の肥厚。進行すると激しい痒み、フケ、脱毛など。掻きむしることによって傷がつき、そこから細菌感染を起こすこともある。
【原因】
ヒゼンダニの寄生による。ヒゼンダニを保有する猫との接触によって簡単に伝播する。
【備考】
ヒゼンダニはヒトにも感染する。60℃のお湯に10分浸漬することでヒゼンダニは死滅する。脱毛が起こりやすいのは顔や耳の縁である。
食物アレルギー
【症状】
長引く痒み、脱毛、下痢など。
【原因】
食餌中に含まれるタンパク質へのアレルギー反応。
【備考】
牛肉などいくつかのタンパク質へのアレルギーは、血液検査によってある程度調べることが可能。ただし基本的に原因となる食品成分の特定は困難なことが多く、解決には時間を要する。また他の皮膚疾患と類似した症状であり、まずはこれらの除外診断を行う必要がある。
光線過敏症
【症状】
皮膚の赤み、点状の丘疹などから始まる。進行すると皮膚の剥離、カサブタ、痛み、痒みが見られる。
【原因】
紫外線の曝露。毛色が白い部分は紫外線の影響を受けやすい。
【備考】
耳の先端、鼻/眼/口の周りなどの毛が少ない部位によく発生する。
線状肉芽腫(好酸球性肉芽腫)
【症状】
上唇の潰瘍形成による食欲不振や脱水、頚部/腹部/内股/後肢の脱毛、痒み、赤みなど。
【原因】
ノミ、食餌、ハウスダストなどのアレルギーの関与が示唆されている。また免疫機構やストレスの関与も疑われているが、はっきりとした原因は解明できていない。
【備考】
1歳齢未満の若い猫で起こりやすいと言われている。
心因性脱毛(舐性皮膚炎)
【症状】
特定の部位を舐め続けることによる脱毛、皮膚の赤み、痒みなど。
【原因】
ストレスが原因と考えられている。舐め続けることにより皮膚炎が生じ、痒みによってさらに舐め続けるという悪循環に陥る。
【備考】
ストレスを緩和するために、自宅に落ち着ける空間を用意するなどの対策をするのもいいかもしれない。ストレス緩和に効果があると謳っているフードやサプリメントもある。
皮膚に異常なし
では、皮膚の色や性状に異常がない脱毛の場合はどうでしょうか。
一時的な脱毛の可能性ももちろん考えられますが、実は内分泌系の異常も考えなくてはなりません。
これら内分泌系疾患では左右対称性の脱毛が見られることが多く、診断には血液検査を行います。また、脱毛以外の症状が現れていることもあるので、日常的にしっかり観察しておきましょう。
甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、脱毛、嘔吐、下痢、多飲多尿、甲状腺の腫大(頚部圧迫による咳)、活動性の亢進など。
【原因】
ホルモン分泌能を維持した甲状腺の過形成および腺腫。一方で甲状腺癌によるものは少ないとされている。
【備考】
高齢の猫における最も一般的な内分泌疾患とされる。良性の甲状腺腫大によるものが多いため、治療による予後は良い。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、食欲増加、体重減少や肥満(インスリン依存性かによる)、脱毛など。尿中にケトン体が出現し、ケトアシドーシスとなると嘔吐、下痢、神経障害、昏睡など。
【原因】
膵炎やヒトのⅡ型糖尿病に相当する、いわゆるインスリン分泌能の低下によるものが多い。他にも悪性腫瘍、感染症、ストレス、肥満などによってインスリン抵抗性となった結果、糖尿病となるケースもある。
【備考】
飲水量の増加が認められた場合、まずは尿検査で比重やケトン体の有無を確認する。動物病院受診によるストレスで猫の血糖値は一時的に上昇しやすいため、フルクトサミンなどの血糖マーカーを測定することもある。
まとめ
皮膚疾患は、直接命に関わることはほとんどありません。
愛猫に脱毛が見られたからといって、すぐに緊急事態だと考える方も少ないでしょう。しかし一方で、内分泌疾患などの大きな病気が隠れていることもあります。
もし、心配なことがあれば、まずは動物病院にご相談ください。