皆さんはエキノコックスという病気をご存知でしょうか?北海道に住んだことのある方なら耳馴染みのある言葉かもしれません。それ以外の地域の方でも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。
野生のキツネを見かけると、つい「かわいい!」といって近づきたくなってしまいますが、実はそれはとても危険な行為なのです。
この記事では、国内のエキノコックス症の感染状況や予防法をご紹介いたします。
この記事の目次
エキノコックス症とは
「国立感染症研究所 エキノコックスとは」より
エキノコックス症はエキノコックスという条虫が寄生することにより引き起こされます。エキノコックスは単包条虫や多包条虫の2種類が分布しており、北海道をはじめとする日本では多包条虫が大部分を占めています。
エキノコックスは、キツネや犬などのイヌ科を中心とする肉食動物に寄生し、これらの糞に混入した卵胞をヒトが摂取することで感染します。
エキノコックス症の症状
エキノコックス症は、終宿主であるキツネや犬よりも、中間宿主であるヒトの方が重篤な症状を示します。
キツネや犬がエキノコックスに感染した場合は軽度の下痢が見られる程度です。
しかし、ヒトがエキノコックスに感染した場合、おもに肝臓に寄生・増殖し、肝臓機能障害に伴う疲労感や黄疸などが見られます。その後、肺や脳にも障害を与え、死に至ります。
患部の切除により治療は可能ですが、患部が大きすぎたり、脳へ寄生している場合は切除が困難です。患部を切除できない場合の死亡率は、5年で70%、10年で94%に達するという報告もあります。また、切除できたとしても再発する可能性があります。
潜伏期間が長いのが特徴
エキノコックス症の潜伏期間は成人で15年〜20年、小児で5年以上と長いことが特徴です。この期間、自覚症状がなく、ゆっくりと臓器を蝕んでいきます。
身体の不調で病院を受診した時には病気がかなり進行しているため、定期的な検診が早期発見に繋がります。
感染症法による届け出の義務化
ヒトのエキノコックス症と犬のエキノコックス症は、どちらも診断した医師および獣医師を通じて保健所へ報告しなければなりません。
ヒトのエキノコックス症
1999年4月に施行された感染症法では、エキノコックス症は四類感染症に分類されました。全数を把握するために診断した医師は保健所への届け出が義務付けられました。
犬のエキノコックス症
2004年10月に施行された改正感染症法では、ヒトへの感染源となる犬のエキノコックス症についても、診断した獣医師による届け出が義務付けられました。
ヒトのエキノコックス症の感染状況
この表は、ヒトのエキノコックス症の届出件数です。
毎年一定数感染が確認されており、ほぼ横ばいであることが分かります。また、そのほとんどが多包性のエキノコックスでした。
こちらの表からは、国内での感染の大多数を北海道が占めていることが分かります。
日本で最初のエキノコックスは、北海道の礼文島で発見されました。一度は根絶されましたが、別のルートから北海島東部に侵入し、現在では北海道全域で見られます。
このため、北海道では5年に一度は検査することが推奨されており、北海道の多くの自治体で検査を無料で受けられます。
犬のエキノコックス症の感染状況
犬のエキノコックスも大部分は北海道が占めています。
北海道以外の事例では、2005年に埼玉県の野犬から1例、2014年に愛知県の野犬から1例、2018年に同じく愛知県の野犬から3例が確認されました。2014年以降、愛知県では毎月、野犬および野生動物の感染状況を把握するための調査を実施しています。
犬の移動が感染を拡大させる可能性
北海道の犬のエキノコックス罹患率は0.2~1.1%と考えられています。
例えば、年間100頭の犬が北海道から本州に移動した場合、1匹程度はエキノコックスに罹患している可能性があるということです。これにより、現在は北海道で限定的に発生しているものが、日本中に広まってしまう可能性もあります。
北海道では犬を放し飼いにしないほうが良いでしょう。もしネズミなどを捕食した可能性があれば、動物病院で検査を受けるようにしましょう。
エキノコックス症の予防法
感染すると恐ろしいエキノコックス症ですが、以下の方法で予防できます。
- 外から帰ったら必ず手をよく洗う
- 野山の果実や山菜などを口にする場合は、よく洗うか十分加熱してから食べる
- 生ゴミやキツネのえさになるものはきちんと保管し処分する
なお、エキノコックスは100℃で1分間加熱すれば死滅します。低温には強いため-20℃程度では死なず、冷凍処理などでは効果はありませんので注意しましょう。
そして、エキノコックスに感染しないためには、キツネや野犬に触れないことが大切です。また、流行している地域で飼育している犬などが野ネズミなどを食べないように注意しましょう。
最後に
2018年の調査によると、北海道のキツネのエキノコックス罹患率は43.2%という結果が出ました。半数近いキツネがエキノコックスに感染していることになり、野生のキツネに触れることは非常に危険です。
エキノコックス症は北海道外でも確認されています。普段から野生動物に触れたり、川の生水などを飲まないように気をつけ、もし触れた場合は必ずよく手を洗いましょう。