皆さんは犬が家族の中で順位を作り、「自分より順位が下だと思っている人間の言うことをきかない」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
犬の問題行動は、飼い主がリーダーになれていないのが原因とする考え方は、昔から多くのしつけの本やドッグトレーナーなどにより語られてきました。しかし、現代ではその考え方が否定されつつあります。
今回は、ついやってしまいがちな誤った犬のしつけ方法について解説していきます。
この記事の目次
間違ったしつけ方法はオオカミの行動学から始まった
犬が家族の中で順位を付けるという考え方は、1940年代に行われたオオカミの行動学の実験が元だとされています。実験の中で、オオカミの群れが社会的ヒエラルキーを形成するということが判明し、アルファ(リーダー)が群れを支配しているという考え方が世界的に浸透していきました。
しかし、この実験は別々の群れで生活していたオオカミを捕まえてきて、無理やり新たな群れを作っており、本来のオオカミの群れによる研究ではないという問題がありました。新たな群れで人間の飼育下に置かれたオオカミが、通常とは異なる行動を示した可能性が高いと考えられています。
オオカミと犬は違う?!
犬の祖先はオオカミとされていますが、犬は数万年前から人間に家畜化されていたことがわかっています。
また、人間に飼育されている犬とオオカミを比較しても、「犬の方がはるかに人間に対して愛着を示す」ことが、数々の研究でわかっていることから、オオカミの行動学を、人間と共に暮らした歴史が長い犬に当てはめるのは無理があると考えられます。
飼い主がリーダーにならなければいけない!?
先に述べたような「オオカミの群れが社会的ヒエラルキーを形成する」という問題ある実験の結果が世界的に広く浸透したこと、「オオカミは犬の祖先であるから、犬も同じように行動する」という科学的根拠に乏しい解釈から、問題行動を抱えている犬に対して「犬が飼い主より自分の方が偉いリーダーだと思っている、だから飼い主の言うことを聞かないのではないか」と考えられるようになりました。
アルファシンドローム(権勢症候群)という概念
アルファシンドロームとは、家族という群れの中のヒエラルキーにおいて、犬が「自分が一番偉い」と思い込み、人間の言うことをきかなくなるという考え方です。
アルファーシンドロームに関してはドッグトレーナーや獣医師などによって様々な考え方がありますが、現代では多くの研究結果により否定的な見方が多いと思われます。
かつてすすめられていた犬のしつけ方法5選
かつては、犬に自分が一番偉いと思わせないため、飼い主との「主従関係」を作ることに重点に置いたしつけ方法が推奨されていました。しかし、アルファシンドロームに対する否定的な観点から、現在では否定されている方法がたくさんあります。
否定されている考え方①飼い主がリーダーにならないと犬は言うことをきかない
厳格な上下関係を作らなくても、以下のポイントを押さえることで、言うことをきいてくれるようになります。
- 適切な褒め方・叱り方をする
- 飼い主の言うことをきくと良いことがあると教える
- 犬と飼い主の信頼関係を築く
否定されている考え方②飼い主を下に見ているからマウンティングをする
犬が飼い主にマウンティングしてしまう場合、以下のことが考えられます。
- 楽しくて興奮している
- 以前マウンティングした時に、飼い主が(嫌がって)大きなリアクションをしたため、楽しくなってしまった
- マウンティングを止めさせなかったために、癖になってしまった
常習化しないためにも、早めに対処することが大切です。
否定されている考え方③飼い主と同列にしないためベッドやソファなど高い場所に犬を上げてはいけない
野生の犬や多頭飼いの家庭犬でも、リーダー犬が高いところで休むというような習性はないので、根拠に乏しい説です。ソファの上にあげることは、降りて欲しい時に犬が素直に降りてくれれば、問題はありません。
ベッドに上げることに関しては、飼い主と一緒にベッドで寝る習慣がある犬の場合、「動物病院に入院する時」、「ペットホテルに預ける時」、「災害時」など、犬が一人で寝なければいけない状況で、大きなストレスを感じやすくなります。一緒に寝ること自体に問題はありませんが、クレートなどで一人で寝ることが出来ることも重要です。
否定されている考え方④犬が自分の方が偉いと思っているから、飼い主より先に歩く
犬が飼い主を引っ張って歩くのは、飼い主より自分の方が偉いと思っているからではなく、以下が主な原因と考えられます。
- 好奇心や匂いを嗅ぎたい欲求が強い
- 運動不足などでストレスが溜まっている
- 飼い主の横について歩く習慣が根付いていない
否定されている考え方⑤引っ張りっこ遊びで負けてはいけない
引っ張りっこで犬のほうが力が強く、飼い主が負けてしまった場合、犬が飼い主を見下すようになるのではないかと考えられていましたが、こちらも根拠のない説です。
引っ張りっこ遊びは犬の狩猟本能を刺激する遊びなので、
引っ張りっこ → 飼い主が手を離す → 犬が獲物(おもちゃ)を確保する
といった流れにしてあげた方が、犬の狩猟本能を満たすことができ、ストレス解消になります。
最終的におもちゃを片付ける時は、特別おいしいおやつと交換することで、「飼い主におもちゃを渡すと良いことがある」と教えておきましょう。
「主従関係」よりも「信頼関係」を大切にしよう
1990年代から、欧米では犬を褒めてしつける「陽性強化法」が主流となり、支配的な「主従関係」よりも、犬と飼い主の「信頼関係」が重要だという考えが広まっています。
この流れは、動物愛護の観点はもちろんですが、犬との厳格な「主従関係」を作り、支配的なしつけをすることによって、「犬が飼い主を信頼できず、凶暴化してしまう」、「犬が萎縮してストレスを抱える」などの問題が多く報告されたことが原因だと考えられます。
飼い主側からしても「頑張ってリーダーにならなくちゃ!」と考えるよりも「犬と良い信頼関係を築いていこう」と考える方が、気が楽になる方も多いのではないでしょうか。犬に対して一方的に行動を強いるのではなく、犬も飼い主も幸せに暮らすことに重点を置いたしつけ方法が広まっていくことを、切に願います。