私たち人間と共に暮らす動物の存在は、時代とともに変化しています。かつては番犬や猟犬など、人間の生活の手助けをする役割を担っていましたが、現代ではペットとして多くの人々の心を癒やし、家族の一員として扱われるようになっています。
この記事では、江戸時代以降の日本におけるペットの歴史を辿っていきます。その時々の人気や扱われ方の変化を知り、日本におけるペットの歴史を学んでいきましょう。
この記事の目次
ペットが庶民に広まった江戸時代
江戸時代に入り、世の中が平和で安定してくると、上流階級のみで飼われていたペットが庶民にも広まりました。
庶民の間で金魚が人気に
金魚は室町時代の末期には日本に渡来し、「こがねうを」という名の高級品で一部の貴族の間で人気がありました。
庶民が金魚を飼うようになったのは江戸時代の中期頃からになります。藩士が副業として金魚の養殖を始めたことをきっかけに大量生産され、金魚が格安で手に入るようになり、庶民の間にも金魚ブームが到来しました。
寛延元年(1748年)には「金魚養玩草(きんぎょそだてぐさ)」という金魚の飼育の指南書も出版されています。
すでに終生飼育を訴えかける動きも
江戸時代の読本作家で絵師の暁鐘成(あかつきのかねなり)は犬の飼育書「犬狗養蓄傳(いぬくようちくでん)」の中で、世界に先駆け、次のように飼い主に終生飼育を訴えました。
「狗(いぬ)は則ち人間の小児と心得べし。その養い方悪しくして狂犬病犬と成り、人を咬むがゆえに遠き山野に捨てること不憫ならずや」
つまり「犬は人間の子供と同じように思うこと。飼い方が悪いと狂犬病に罹り、咬むからといって遠くの山に捨てることはとても可哀想なことだ。」と主張しています。
西洋文化の影響を受けた明治時代
明治時代になり、多くの西洋文化が日本に入ってきました。西洋化は建築から散髪、洋装まで多岐にわたり、人々の生活を大きく変貌させました。ペットも例外ではなく、人々の生活に影響を与えました。
人気が加熱し「うさぎ税」が課される
西洋文化の到来と共に、西洋のうさぎも人気に火が付きました。当初は華族や士族などの富裕層を中心に人気を博していましたが、新聞や風刺画などのメディアで盛んに取り上げられるようになり、庶民の間でも人気になります。
明治5年(1872年)には「うさぎ税」が導入され、当時の公務員の初任給が1ヶ月で8~9円の時代に、うさぎ1羽につき1円もの高額な税金が課されました。
ペットの役割が大きく変化した昭和
戦争や高度経済成長期など、人々の暮らしが大きく変化していった昭和の時代。この時代のうねりの中で、ペットたちの置かれる立場も大きく変化していきました。
「日本犬」が天然記念物に指定される
明治以降、欧米から洋犬が積極的に輸入されるようになり、日本犬の飼育は急激に減少します。山間の僻地以外では日本犬がほとんど見られなくなり、昭和初期には純血の日本犬はほとんど姿を消すことになりました。
この現状に危機感を抱いた斎藤弘吉は、日本犬の復興を呼びかけ、「日本犬保存会」が昭和3年(1928年)に創立します。
そして、秋田犬が昭和6年(1931年)7月に国の天然記念物に指定されたのを皮切りに、昭和6年~12年にかけて日本犬の6犬種(柴犬、秋田犬、甲斐犬、紀州犬、北海道犬、四国犬)が次々と天然記念物に指定されました。
犬は番犬、猫はネズミ捕りをしていた
1950~60年代は、まだ犬には番犬の役割が求められ、外飼いが主流でした。中でも「日本スピッツ」は、よく吠える習性や真っ白で可愛らしい見た目から人気があり、一時期は純血種として登録される犬種の4割が日本スピッツだったとされています。
一方で、猫はネズミ捕りに重宝され、屋内外を自由に行き来して暮らしていました。
しかし、どちらも半分ペット、半分益獣のような扱いであり、食事についてもペットにとっての栄養バランスは考慮されておらず、人間の残り物を与えられていました。
たびたび起こる熱帯魚ブーム
熱帯魚の最初のブームは1960年代に起こりました。それ以前にも熱帯魚の愛好家はいましたが、熱帯魚の販売価格や維持費がかなり高額で、一部の富裕層の趣味であったようです。しかし、60年代に入ると、生体の販売価格が抑えられ、飼育用品の普及も相まって、最初の熱帯魚ブームが起こりました。
1980年代後半~90年代前半のバブル期には「グッピー」が人気を博し、2000年代にはアニメ映画の影響で「カクレクマノミ」が人気になりました。
住宅事情と小鳥ブーム
1950年代後半~70年代にかけて、小鳥ブームが起こり、多くの家庭で飼育されるようになりました。特に、「セキセイインコ」や「文鳥」などが人気であったようです。
この時代は、集合住宅や団地が増えてきたため、犬や猫のようなペットを飼うことが難しくなっていたことが背景にありました。また、インコや文鳥は手乗りができ、鳴き声が可愛らしく、飼育が容易であることから、多くの人々に愛されました。
犬の飼い方に変化が見える70年代
1968年~84年までの16年間は「マルチーズ」が登録犬種の第一位を独占していました。マルチーズに加え、「ポメラニアン」や「ヨークシャー・テリア」といった小型の室内犬が人気を博し、この3犬種を表した「マル・ポメ・ヨーキー」という言葉が出来たほどです。
この頃から犬の放し飼いが減少し、ペットフードや動物病院などのペットを飼う環境が整備されていきました。
ペットから家族の一員になった平成・令和
バブル景気、そしてバブル崩壊後の長期低迷期をたどった平成。疫病や物価高騰に苦難する令和。そんな時代の中、ペットの人気や暮らしにはどのような変化があったのでしょうか。
バブル時代には大型犬が人気に
バブル期以前の大型犬は、映画やアニメの影響で「ラフ・コリー」が根強い人気を博していました。
その後、バブル期の80年代後半~90年代半ばになると、「ラブラドール・レトリーバー」や「ゴールデン・レトリーバー」などの大型の洋犬が豊かさの象徴として飼われるようになりました。また、人気漫画の影響で「シベリアン・ハスキー」も大人気となりました。
根強いハムスター人気
昭和から平成へ移りゆく頃、漫画の影響でハムスターブームが起こりました。その後、2000年頃には、アニメの影響で子どもたちを中心に再びハムスターの人気が高まり、関連アイテムも多数販売されました。ケージのカスタマイズを楽しめることも人気の一つの要素だったようです。
近年は、一人暮らしでも飼えるペットとして注目を集め、再び静かに人気が再燃しつつあります。
今も続く小型犬の時代へ
90年代後半は、現在も続く小型犬人気の始まりでした。短い脚で独特の可愛らしさがある「ミニチュア・ダックスフンド」が人気を集め、2000年代に入るとCMの影響で「チワワ」人気が爆発しました。
これら2犬種に加え、「トイ・プードル」も非常に人気があり、2003年から20年近く、この3犬種が人気犬種ランキングのトップ3を独占しています(ジャパン・ケネル・クラブ「犬種別犬籍登録頭数」より)。
まとめ
江戸時代より前の時代では、庶民は生きていくだけで精一杯の状況にあり、ペットを飼う余裕がなかったと思われます。江戸時代以降も、貧しい人たちはペットを飼えませんでした。
また、第二次世界大戦中は、ペットを国に供出しなければならなかった悲劇もありました。
現在、私たちがペットを愛し、家族の一員として一緒に暮らしていられるのは、平和で豊かな暮らしができている証拠だと言えます。このように考えると、ペットを通して恵まれた時代に生まれたことに感謝の気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。